酒の味の決め手となるのが「酵母」と呼ばれる微生物。花や果物からとるのが一般的ですが、鹿島市の酒蔵が“有明海の干潟”で見つかった酵母を使って新しい日本酒を完成させました。
馬場酒造 馬場嵩一朗さん:「最初は本当にとれたらいいなという感覚だったので単純にうれしかった。こんなところに(酵母が)いたんだという感覚」
鹿島市の老舗酒造メーカー馬場酒造場。2022年9月、これまでにない新しい日本酒を発売しました。その名も「ARATA」。
酸味が強く、甘口ながらさわやかで、日本酒に慣れていない人でも飲みやすい酒です。
馬場社長:「弊社が能古見というブランドの酒を1993年に作って、30年弱。うちに無いタイプをチャレンジしたいと思って今回作った」
ARATAを手掛けたのは息子の嵩一朗さん28歳です。最もこだわったのは「酵母」日本酒の味や香りの決め手となる微生物です。
馬場酒造 馬場嵩一朗さん:「酵母はお酒の製造でアルコールを出すという意味ですごく重要な微生物。酵母のキャラクターというのはお酒の特徴に大きく関係してくる」
実は2022年3月まで佐賀大学の大学院で微生物を研究していた嵩一朗さん。6年前に書いた大学の卒業論文のテーマは「お酒づくりに使える酵母」でした。
そこで目をつけたのが地元鹿島の観光資源有明海の「干潟」だったといいます。
馬場さん:「佐賀を代表する自然界から(酵母を)とりたいと思っていて、海からもトライしてみようと思ったら運が良くてたまたまこの酵母が見つかった」
花や果物から「酵母」を抽出するのが一般的な日本酒。海から、ましてや干潟から抽出するのはかなりめずらしいと言います。ただ単に酵母を見つけても良い酒を作るにはまだ課題がありました。
馬場さん:「お酒の表現として特徴が出にくかったので、取れた酵母をさらに育種改良というが酸味の成分をたくさん出すような酵母に少し改良をかけた」
干潟から見つけたあと、嵩一朗さんが行ったのが酵母を培地で増殖させること。そして、増殖させた酵母1つ1つのDNAの配列を人工的に変え、酸味という特徴がより強く出るパターンを探しました。
調べたパターンは6000通りを超え、ようやく理想の酵母を引き当てたといいます。
馬場さん:「研究って結構地味なことをコツコツやっていくところが大事なところだが、そこの根気強さは必要だったかなと思う」
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当時所属していた研究室の教授は…。
小林元太教授:「佐賀県全体に役に立つ酵母が佐賀県で取れれば、ほかの蔵元さんなどいろんなところで役に立つんじゃないかと思って非常にうれしかった」
Qここではどんな作業をしている?
馬場さん:「こちらの部屋が仕込み部屋と言っています。この1本1本のタンクに麹米とお水と蒸米、酵母が混ざったものをもろみと言うが、ここにもろみを仕込んでおよそ30日間かけてお酒にしていきます」
2022年4月には実家の馬場酒造場に入社した嵩一朗さん。6年間の研究成果をもとに「ARATA」を完成させました。
名前には「酵母や酒の味わいなど様々な点で“新しい”酒に」という思いが込められています。
馬場嵩一朗さん:「お酒になったというのはまずは達成感もあったがほっとした」
今後もこれまでにないような酒をつくり、日本酒文化の裾野を広げていきたいと話す嵩一朗さん。ひいてはそれが佐賀の酒の魅力を発信することにもつながると考えています。
馬場さん:「ベストを尽くしながらより良いお酒をつくっていく。ということに、ずっとこだわりたい、それがお客様に認められるようになれば必然的に興味を持ってもらえる方も増えていくのかなと」
「NOGOMIARATA」は720ミリリットルで2200円。